鍾乳洞

深い深い竪穴鍾乳洞の記憶



それは


舞鶴で同僚だった
ウエヤスさん


転勤することになり


3月末


我々はサヨナラ旅行
決行した時のことだ


兵庫県氷上にある
牧場みたいなペンションへ行った

晩御飯は
チーズフォンデュのみ


お腹一杯にならない


周りは森
夜中になると
あたり一面真っ暗で


暗闇に興奮


「やっほっほぉぉ」
「ほっほっほぉぉ」


風呂上がり
腹減らしながら
部屋の小窓から
叫んでいたら

「動物がこわがるから
静かにしてください」


ペンションのおやじさんに
注意された


翌日


あてなく車を走らせると
どこにも着かない


いけどもいけども
どこにも着かない


それでも仕方なく向かっていると


西脇市にいた

東経135度北緯35度が交わる
日本のへそに位置するまちらしい


日本へそ公園
コーヒーを飲む


そこから再び舞鶴目指し
帰路へつく


道すがら


ウエヤスさんは
何度も何度も
テープリピート


ヤマザキマサヨシ「ワンモアタイム」を聴いている


夕暮れはせまり


舞鶴が近づく頃


「質志鍾乳洞→」の看板
見えた


「ワンモアタイム」聞いていたウエヤスさんが
思い出したように突然


「行きたい」
言い出した


鍾乳洞に興味はない


しかしこれは
彼女のサヨナラ旅行である


希望かなえるべく
車を止めて
鍾乳洞へ向かうと


薄暗い3月
人影はなかった


しかし
のっそり
おじいさんが現れて


「鍾乳洞か?」
聞いてきた


「もうしめるとこやったけど
あんた達最後や
見ておいで」


そういって
我々は
鍾乳洞へ向かうことになった


鍾乳洞は
せまい入口で
なかは寒くて湿ってた


おまけに暗く先が見えない


はしごのような階段が
地底へ続いている


どこまでも
どこまでも


深く深く


急な階段を
滑りながら
降下していった


地底の底には
沼があった


手がでてきそうな沼だった


ここからまた地上に
戻ることができるのか


重い気持ちに襲われる


私が前
ウエヤスさんが後ろ
離れないよう二人は上った


「こわいよお」
私が言うと


「そんなん言ってもはじまらへん」
「はやくのぼるしかないやろ」
ウエヤスさんは弱気な私を怒る


しばらく行くと


「はやくいってーーー!」
「なんかにひっぱられてるぅぅぅぅーーー!」
ウエヤスさんが叫んだ


むっちゃむっちゃおびえた


ウエヤスさんは
「平家がぁぁぁーーーー」
と叫んだ


平家ってなに?
平清盛


そしたらわたしも
なんかによっぱられ
なかなか上に上がれない


重力以上のなにかだ


泣きながら
地表にたどりついた二人

転がるように
受付まで転がって


おじいさんの顔が見えると


やっと落ち着いた


これが
ウエヤスさんとワタシの
不思議な平家鍾乳洞体験


鍾乳洞は
深い深い記憶の中
ときどき
意識の表層に顔をだす